【 日経新聞に掲載されました 】
6月17日に開催したおせっかい講座が日経新聞「育む」に掲載されました。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO34097700T10C18A8KNTP00/
『児童虐待 見逃さない
早期の気付きが大事 あざなど市区町村に報告を 松戸市立総合医療センター小児科医長 小橋孝介さん 』
閉ざされた家の中で起こることが多い児童虐待。周囲が「おかしい」と思っても、虐待かどうかの判断は難しく、声がけや通報をためらう人は多い。周りの大人が虐待を察知する手掛かりや、虐待のおそれがある子供と会った時の望ましい対応は何か。多数の被虐待児を診療している、松戸市立総合医療センター(千葉県)小児科医長の小橋孝介医師の助言を、日経BP社の共働き世帯向け情報サイト「日経DUAL」から紹介する。
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身体的な虐待は、小突くといった軽いものから始まり、強くたたく、傷ができる、救急搬送される、というように次第に激しくなって死に至るケースがほとんど。早い時点で周りが気付けば、ひどくなる前に子供と親に支援の手を差し伸べることができる。
厚生労働省の調査によると、2016年3月末までの1年間に虐待で死亡した子供(心中を除く)は52人。救急の現場で明らかに虐待であろうと推測されても、虐待死と認定されないケースが多い。
日本小児科学会(東京・文京)が16年に発表した調査によると、虐待死は年間約350件と推計され、ほぼ1日に1人が亡くなった計算になる。私が勤務する松戸市立総合医療センターの「家族支援チーム」は17年に、300件以上の虐待案件に対応した。今年は6月までで300件を超えている。
目に見える虐待のサインはある。例えば、子供のあざややけどの形。中でも「パターン痕」と呼ばれる特定可能な傷痕は危険なサインだ。虐待を受けた子供の57%に、このパターン痕が存在した。
最も多い例は、平手打ちによる手のひらの痕。縄跳びの縄や電源コードでたたかれて、ひも状の痕が残る例もある。「=」のような平行線のあざは、硬い竹ぼうきの柄などで強くたたかれた時に、そらまめ状のあざは、つねられた後にできる。服に隠れる部分にあざがあると、より強く虐待を疑う。
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たばこによるやけどの場合、多くの親は「子供が突然走って来て、たばこを持った手に当たってしまった」などと言い訳する。子供は熱いものに触れたら反射的に手を引くので、こすったような長方形の浅い傷になるはず。丸くて深い傷は、故意に押さえつける“根性焼き”でできた痕といえる。
生後6カ月未満の自分で動けない赤ちゃんの顔にあざがあるのは、切迫した状況。医療現場では虐待の最重症に準じて対応すべきケースだ。私自身、顔にあざのある赤ちゃんを診療して、児童相談所に保護を強く勧めた経験がある。その赤ちゃんは結果的に家に帰された後、心肺停止状態で再び病院へ搬送され、亡くなった。
接点がある子供に外傷を見付けたら、客観的な情報を市区町村の相談窓口などに伝える必要がある。子供はけがの治りが早く、あざなどはじきに消えるので、傷をスマホなどで撮影して、記録を残すとよい。可能なら顔を一緒に写して子供を特定する。十円玉や定規などをそばに置いて撮影すると、けがの大きさが伝わる。
子供がおびえた様子を示したり、他人にまとわりついたりするのもサインかもしれない。両親間の暴力を目撃する「面前DV」や性的虐待といった見えない虐待を受けている恐れがある。
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虐待かどうか迷ったら、子供の立場からはどう見えるか、今この子のために何をすべきかを考えてほしい。人は「何か気になる」と疑っても、「そんなはずはない。親はいい人そうだし、子供も元気そう」などと打ち消そうとしがち。一つでも心配な要素があれば、速やかに行動を起こしてほしい。何もせずに子供が不幸になるよりは、責められたとしても行動して子供を救う方が重要だ。
我々のチームは、たばこなど異物の誤えんと誤飲、家族しか見ていないところで起きた転落ややけどは、全て市町村に情報提供している。その結果、事例の2~3割は、既に他の組織による注意喚起や支援の対象になった家庭で起きているとわかった。救急外来の小児科医が「全く問題ない」と判断した中にも、非常にリスクの高い家庭が存在した。
虐待の情報提供が2回目以降だと、よりリスクが高いと判断されやすく、自治体の対応が変わる。情報が蓄積されると、虐待が悪化する前の支援につながる。
近くに気がかりな様子の子供がいたら、まずは声をかけてみよう。あいさつから始めて、少しずつ関係を築いていく。現代の生活に合ったコミュニティーを作るのが、子供を救うのに役立つはずだ。
=詳細は日経DUAL(https://dual.nikkei.co.jp)6月27、29日付で
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